慣性力の式の導出と使い方を例題で解説!

難易度:★★★☆
頻出度:★☆☆☆

今回は苦手な方が多い慣性力について解説します。

慣性力はイメージしづらくやっかいな概念ですが、その式がどうやって導き出されるのかを見ておくと理解が深まると思います。

最後には頻出問題を解説し、注意点をいくつかお話しします。

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慣性系と非慣性系

まずは慣性系と非慣性系という用語について説明させてください。

慣性系とは慣性の法則が働く座標系のことです(慣性の法則についてはこの後のメモをご参照ください)。

地面や等速で運動している座標系は慣性系となります。

ここで、「座標系」と言うと堅苦しいですが、「観測者」と置き換えると分かりやすいと思います。

つまり慣性系とは「地面に立っている観測者」や「等速で運動している観測者」のこと、と覚えておきましょう。

<メモ>
慣性の法則は、端的に言えば「力を加えなければ物体の運動に変化はない。」というものです。
力を加えなければ、静止している物体は静止しつづけ、等速で運動している物体はずっと等速のままです。

一方、慣性の法則が成り立たない座標系を非慣性系と言います。

加速度運動している座標系が非慣性系にあたりますので、非慣性系は加速系とも呼ばれます。

こちらは「非慣性系 = 加速度運動している観測者」と覚えておきましょう。

慣性力とは

そして非慣性系においては、つまり加速度運動する観測者から見たときは、慣性力を考えなくてはいけません。

(慣性系ではなく非慣性系で慣性力を考える、というのは文字だけ見ると逆に誤解しがちですので注意しましょう。)

慣性力は加速度運動する観測者だけに見える見かけの力(実際には存在しない力)です。

どういうことか、次の慣性力の式の導出で詳しく説明します。

慣性力の式の導出

それでは次の図をご覧ください。

加速度 a で運動する電車内のつり革(の持ち手部分(質量 m))を、地面にいる観測者 A(慣性系)と電車内にいる観測者 B(非慣性系)から見ます。

慣性力の式の導出はこのような設定で説明されることが多いです。

慣性力 F=ma の導出の説明図

まず観測者 A から見た場合は、つり革は電車と共に加速度 a で運動しています。

持ち手部分に働く力はつり革の張力 T と重力 mg のみで、T を水平(x)方向と垂直(y)方向に分解すれば運動方程式を立てることができます。

一方、電車内にいる観測者 B から見ると、つり革は静止しています。

持ち手部分に働く力について、実際に働く力(つまり A から見える力)のみ考えると、x 方向で力がつり合っていない(Tcosθ と逆向きの力が存在しない)ので、B からはつり革が静止して見えることに矛盾してしまいます。

そこで、Tcosθ と逆向き(x 軸負方向)に働く見かけの力(B からしか見えない力)を F とおいて運動方程式(つり合いの式)を立てます。

この F慣性力です。

後は A から見たときの x 方向の運動方程式と、B から見たときの x 方向の運動方程式(つり合いの式)を連立すれば F が求められます。

結果として慣性力の大きさは F = ma、つまり(質量)×(観測者 B の加速度)と求められます。

そして向きは観測者 B の加速度 a と逆向きです。

まとめ

以上のことをいったんまとめておきましょう。

慣性力は加速度運動している観測者(非慣性系)から見たときだけ働く見かけの力で、働く向きは観測者の加速度 a と逆向き大きさは ma です。

上記の導出のプロセスを理解した上で、この結果もしっかり覚えておきましょう。

次のように単語カードにもまとめておきます。

慣性力のまとめ(1)

慣性力のまとめ(2)

問題に挑戦!

それでは慣性力を考える問題を実際に見てみましょう。

どんな参考書・問題集にも載っていそうな有名問題です。

慣性力を考える例題

<解答・解説>

この問題のように複数の物体が相互に運動する場合、慣性力を考えるとうまく解けることがあります。

解説の前に少しコメントをば。

問題文で聞かれている「B に対する A の斜面方向の加速度」は「B から見た A の斜面方向の加速度」、つまり「B 上の観測者から見た A の斜面方向の加速度」のことです。

同様に「地面に対する B の加速度」は「地面上の(静止した)観測者から見た B の加速度」のことです。

に対する」という言葉は物理の問題でよく出てきますが、このように「から見た」と変換すると分かりやすいです。

次の相対速度の記事でも解説していますのでご興味がある方は是非併せて読んでいただければと思います。

<注意1>

「B から見た A の斜面方向の加速度」と「地面から見た A の加速度(こちらは問題で聞かれていません)」は別物です。

B が左へ動く分、地面から見ると A の運動方向および加速度の方向は斜面方向から少し沈んだ(傾きが急な)方向となります。

(この後の<注意2>も是非ご覧ください。)

それでは B 上の観測者を C、C から見た A の加速度を aA、地面上の(静止した)観測者を D、D から見た B の加速度を aB とし、この問題を解いていきましょう。

慣性力を考える例題の解答その1

早速今回のメインテーマである慣性力が出てくる方からいきます。

C は加速度運動しているので C から見ると A には慣性力が働きます。

慣性力の大きさは(着目物体である A の質量)×(観測者の加速度)ですので mA × aB となります。

向きは aB と逆向き、つまり右方向です。

この慣性力も忘れずに、C から見た A の力をすべて図示します。

C から見れば A は B の斜面上を滑るので、斜面方向(x 方向)と斜面に垂直な方向(y 方向)の運動方程式を立てます。

垂直抗力と慣性力の分解では sin と cos を逆にしないように十分注意しましょう。

次に D から見て B に働く力を考えます。

こちらは慣性力が出てこないので普通の力の図示です。

B は左方向に運動するので左方向を x の正方向として運動方程式を立てます。

(C と D は視点が違うわけですから、2つの座標軸(正方向)が存在してしかるべきです。)

<注意2>

なお D から見た A の運動方程式は問題を解く上では不要です。

ですが少なくとも、D から A を見たときは慣性力は働かないことは押さえておきましょう(D は慣性系にいるので)。

そしてここで、垂直抗力(NA)と重力の斜面と垂直な成分(mA gcosθ)がつり合っていると考えるのは間違いです。

上の<注意1>で書いたとおり、D から見ると A の運動方向は斜面方向からずれるので、斜面と垂直な方向についての力のつり合いは成り立ちません。

このように A の運動は D から見ると複雑で考えるのが難しいので、加速度運動する C を持ち出して慣性力を考慮するのです。

前述のとおり C から見れば A は B の斜面を滑るだけ、とてもシンプルですから。

なお D 目線のみでこのような設定の問題を解決する場合は、束縛条件を考えます。

束縛条件については今度別の記事で詳しく解説する予定です。

→ 束縛条件の記事を投稿しました。次のリンク先からご覧いただけます。

さて、問題の解説に戻りましょう。運動方程式が4本書けたら、あとは次の図のとおりにバリバリ計算するだけです。

aA を求める途中で三角関数の相互関係を使うと式がきれいになります。

慣性力を考える例題の解答その2

いかがだったでしょうか。

本問のように

複数の物体が相互に運動する場合

地面から見ると運動が複雑だが、加速度運動する観測者目線で見ると運動がシンプルになる場合

に慣性力を考慮すると良いでしょう。

とは言え、慣性力を持ち出す問題は大体のパターンや設定が決まっているので、問題集などで頻出問題を演習しておけば安心です。

今回はここまでです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。