格子エネルギーを求めるためのボルン・ハーバーサイクルの要点

難易度:★★★★
頻出度:★☆☆☆

以前、次のリンク先の記事で、ヘスの法則に基づき反応熱を求めるためにエネルギー図を描く基本的な方法を紹介しました。

今回は格子エネルギーを求めるための少し特殊なエネルギー図「ボルン・ハーバーサイクル」について説明します。

はじめてだと難しく感じるかもしれませんが、正しく理解して要点を押さえて暗記しておけば安定した得点源になりますよ!
少々長い記事ですが、最後にまとめもありますので、是非最後までお付き合いください(目次からジャンプもあり!)。

スポンサーリンク

格子エネルギーって何?

はじめに格子エネルギーについて説明します。

定義は次のとおりです。

格子エネルギー

固体状態のイオン結晶を気体状態の構成イオンまでバラバラにするのに必要なエネルギー

構成イオンとは陽イオンと陰イオンのことです。

イメージとしては、結合エネルギーのイオン結晶版(イオン結合版)といった感じです。

※結合エネルギーについては次の記事をご参照ください。

結合エネルギー同様、必要なエネルギーとして定義されるので必ず吸熱です。

つまり、問題文などでは「結合エネルギーは 〇〇 kJ/mol」と書きますが、熱化学方程式で書くときはマイナスが付くので注意しましょう。

結合エネルギーはイオン結晶中のイオン結合の強さの指標でもあります。

結合エネルギーが大きいということは、イオン結晶をバラバラにするのに必要なエネルギーが大きいということなので、結晶内のイオン結合が強いといえます。

イオン結晶の格子エネルギーは実験で直接測定することができません。
そこでヘスの法則を用いて間接的に求めます。

ボルン・ハーバーサイクルは「スタートと流れ」を押さえる

ヘスの法則に基づいて格子エネルギーを求めるためのエネルギー図はボルン・ハーバーサイクルと呼ばれます。

「サイクル」というくらいですので、エネルギー図をスタートから順に見ていくと一周回ってスタート地点に戻ります。

ボルン・ハーバーサイクルを覚えるための要点は、このスタート地点一周回る流れを押さえることです。

それではポイントとなる「スタートと流れ」を具体例で説明します。

塩化ナトリウム(NaCl)の例で確認!

例として、入試やテストで最もよく出る、塩化ナトリウム(NaCl)のボルン・ハーバーサイクルを下図に示します。

ここで、冒頭で紹介したこちらの記事で強調しているように、エネルギー図を描くときのポイントである次の点を意識しながら、サイクルを見たり描いたりするように心掛けましょう。

<注意>
・エネルギーの目安(バラバラなものほど高い、くっつくと安定して低い)を意識する!
・エネルギー図の矢印は両矢印で描く!

格子エネルギーを求めるボルンハーバーサイクルの例と要点(NaCl)

⓪スタートはイオン結晶(固)

ボルン・ハーバーサイクルを描き始めるスタート地点は、一番下のイオン結晶(固)です。

この例ではシンプルに係数は 1 、つまり 1mol で設定すればOKです。

ここから少しずつ構成イオンまで一歩ずつバラバラに分解していくイメージで、図中の①~⑥の流れを順に解説していきます。

①生成熱で単体へ

まずは固体のイオン結晶を単体へ分解します。

生成熱は単体から化合物 1 mol が生成するときの反応熱なので、ぴったり生成熱分だけ上の段に上がります。

この例では塩素分子に 1/2 が付くことに注意しましょう。

②固体を昇華熱で気体へ

次に固体を昇華させて気体にします(最終的に気体のイオンまで分解するので、固体は邪魔ですもんね)。

昇華熱分だけ上の段に上がります。

ちなみに昇華熱も固体から気体にするのに必要な熱なので必ず吸熱になります。

③結合エネルギーで気体分子を分解

次に気体分子内の共有結合を切って、気体状態の原子に分解します。

結合エネルギー分だけまた上の段に上がります。

結合エネルギーの定義については先ほど紹介したこちらの記事をご参照ください。

この例では塩素分子の 1/2 が消えることに注意です。

④第一イオン化エネルギーで陽イオンと電子をつくる

この辺りから少し難しくなってきます。

構成イオンの片割れ、陽イオンをつくりましょう。

つまり、気体状態の金属原子(この例ではナトリウム原子)から陽イオン(ナトリウムイオン)をつくります。

このとき用いるのが第一イオン化エネルギーで、定義は次のとおりです。

この分野に限らず、化学全体で重要となる知識なので、必ず覚えておきましょう!

第一イオン化エネルギー

気体状態の原子から電子を一個取りさって、一価の陽イオンにするのに必要なエネルギー。
必要なエネルギーなので必ず吸熱。

この定義からも分かる通り、陽イオンにするときには電子が一個出てきます。

なので第一イオン化エネルギー分だけ上がった最上段では陽イオンと電子が新たに登場します。

<メモ>
先ほど意識してほしいと言ったエネルギーの目安(バラバラなものほど高い、くっつくと安定して低い)の通り、スタート地点のイオン結晶(固)からはじめて、どんどんバラバラにして、エネルギー図で上に上がってきました。
最上段には電子も出てきているので、バラバラ度MAXです。

折り返し地点まできました。
ここからはくっつけて安定化、つまりエネルギー図を下がっていきます。

⑤電子親和力で電子をくっつけて陰イオンをつくる

先ほど出てきた電子を、今度は陰イオンをつくるために利用します。

電子は負の電荷を持つので、今回の例で言えば塩素原子にくっつければ陰イオンである塩化物イオンになりますよね。

原子が電子を受け取り陰イオンになって安定化すると一段下に下がりますが、その際用いるのが電子親和力です。

電子親和力

気体状態の原子が電子を一個受け取って一価の陰イオンになるときに放出されるエネルギー。
安定化するために放出されるエネルギーなので必ず発熱。

ようやく構成イオンまで分解することができました!
ずっと上へ上へとエネルギー図を上がってきましたが、この電子親和力のところで一段下がることに注意しましょう。

上図の塩化ナトリウムの例では、Na(気)の第一イオン化エネルギー④がCl(気)の電子親和力⑤より大きいので、図のような位置関係になっています。
実際の問題では各ステップの反応熱が与えられますので、第一イオン化エネルギーと電子親和力の大小関係に注意して図を描きましょう。

⑥格子エネルギーでスタートに戻る

最後に格子エネルギー分だけ下に下がり、スタート地点に戻ってサイクル終了です。

以上の流れを覚えておきましょう!

問題に挑戦!

それでは実際に格子エネルギーを計算してみましょう。

正直ボルン・ハーバーサイクルが描ければ計算自体は大したことはありません。

問題

次の反応熱を用いて塩化ナトリウム(NaCl)の格子エネルギーを求めよ。
・塩化ナトリウムの生成熱:411 kJ/mol
・固体のナトリウムの昇華熱:107 kJ/mol
・塩素分子中のCl-Cl結合の結合エネルギー:244 kJ/mol
・気体のナトリウム原子の第一イオン化エネルギー:496 kJ/mol
・気体の塩素原子の電子親和力:349 kJ/mol

<解答>

先ほどのボルン・ハーバーサイクルに各反応熱を書き込んで格子エネルギーを計算します。

基本的には与えられた数値をそのまま使うことができますが、結合エネルギーのところのみ、1/2 が付くことに要注意です。

塩素分子の中にCl-Cl結合は1つありますが、塩素分子自体が 1/2 個ですので。

塩化ナトリウム(NaCl)の格子エネルギーを求める例題の解答

ちなみに、各反応熱を熱化学方程式で書くと次のようになります。

問題文では正の値で与えられていても、必ず吸熱になる反応熱は熱化学方程式ではマイナスが付くことに注意しましょう。

また、電子親和力は必ず発熱です(赤丸のところ)。

また、結合エネルギーのところは図に合わせて 1/2 した式を書いています

塩化ナトリウム(NaCl)のボルンハーバーサイクルの熱化学方程式のまとめ

字が汚くてごめんなさい!

こうしてみると、必ず吸熱のものがけっこうあり、エネルギー図で反応の向きを考え出すと混乱しがちです。
なので前述のとおり、エネルギー図は両矢印で書いて、エネルギーの差のみを意識するようにしましょう!

まとめ

ここまでお疲れ様でした!

最後にいつも通り、単語カードにズバリまとめをつくっておきます。

ボルン・ハーバーサイクルは「スタートからの流れ」を大まかに暗記しておけば、テストのときなどに自力で描くことができるはずです!

格子エネルギーを求めるボルンハーバーサイクルのポイント(1)

格子エネルギーを求めるボルンハーバーサイクルのポイント(2)

サイクルの流れを覚えられるように反応熱の名称を並べて書いてみました。

水色の線で囲った反応熱は必ず吸熱のものです。

上にいくほどバラバラでエネルギーが高いことを意識しましょう!

今回はカードのうら面を縦方向に使ってみました。
最後まで読んでいただきありがとうございました!